2022年度より、高校の家庭科で『資産形成』の授業が必修化され、話題になりました。これまでも家計(収入と支出)や消費における注意点などは教えられていましたが、そこに、預貯金や保険、株式、債券、投資信託など金融商品に関する内容が追加されたのです。
これは、2022年度から成人年齢が18歳に引き下げられたことに加えて、政府が推し進める「貯蓄から投資へ」「資産所得倍増プラン」といった政策とも関連しているようです。
そこで株の学校ドットコムでは、本年度、高校で実際に金融教育の授業を担当した教員の方々にインタビューを行いました。すると、次のような声が聞こえてきました。
「いきなり投資を始める子が出てくるのではないかと心配。これまで以上に家計管理の教育が重要だと感じている」
「個人的には、投資よりも、計画的に貯蓄する方が先だと考えている。それをどう伝えればいいか悩んでいる」
「高校生に投資を教える」という側面がフォーカスされる一方、学校現場では困惑もあるようです。
では、高校生の子を持つ親世代は、高校の金融教育にどのような内容を望んでいるのか。また、自分が高校生だったときに、どんな金融教育を受けたかったと感じているか。一般の人々の金融教育に対する意識調査を行いました。
その結果、今の高校生への金融教育では「資産形成」よりも「騙されない」「失敗しない」ための教育を望むものの、自分が高校生のときには「資産形成」を教えてほしかった、という親世代の複雑な心境が透けて見えてきました。
- 自身が高校時代に学びたかった金融教育: 「年金、健康保険、税金、税制」が最も高く46.9%
- 今の高校生に必要な金融教育: 「年金、健康保険、税金、税制」が最も高く49.4%
- 資産形成より先に、騙されない・失敗しないための教育ニーズが高い
高校時代に学びたかったのは「年金、健康保険、税金、税制」
今回の調査では、まず『回答者』が自身の高校時代に、どんな金融教育を受けたかったと思うか質問しました。その結果、「年金、健康保険、税金、税制」を挙げた人が最も多く、46.9%となりました。
続いて、「資産の運用方法(株式、投資信託等)」が40.0%、「家計管理、生活収支、貯金」が37.0%、「資産運用の必要性」が32.6%となりました。
それぞれ理由については、以下のような回答が得られました。
「年金、健康保険、税金、税制」を選んだ理由
「税金などがいまだによくわからないから」 / 34歳女性
「知識がないともらえるものも貰えないから」 / 45歳女性
「好むと好まざるとに関わらず、自分に関わる内容だから」 / 42歳男性
「誰でも身近に直面する問題なので。」 / 66歳女性
「年金のことなどはみんな知っておくべきだと思って」 / 46歳男性
「大人になってから、必ず払うことになるものだから」 / 41歳女性
「資産の運用方法(株式、投資信託等)」を選んだ理由
「お金を貯めて、どう活用するかを早く知りたかった。年金制度への不安。」 / 38歳男性
「株式投資などをもっと若い時から知りたかった」 / 63歳女性
「特に株や為替の知識がほしかった。」 / 68歳男性
「年を取るまで、ほとんど知らずに過ごしてきた気がする。」 / 69歳男性
「資産運用とか保険とか、働くようになって初めて知ることを、高校の時に教えてもらうと役立つと思います。」 / 61歳女性
「資産運用の必要性」を選んだ理由
「この年になって、無知な事に後悔があるから。」 / 49歳女性
「計画的にお金を貯めて運用することの大切さを若い時に知りたかった」 49歳女性
「給料だけでは生活が苦しいから。」 / 50歳男性
「興味はあるがわからないから」 / 34歳女性
「資産運用の重要性が増しているので」 / 40歳男性
「若いころから金融のリテラシーをしっかり身につけておけば良かったと思うことがある。」 / 47歳男性
今の高校生には「年金、健康保険、税金、税制」
次に、『今の高校生』にどんな金融教育が必要と思うか質問しました。
その結果、前の質問と同じく「年金、健康保険、税金、税制」が最も高く49.4%でした。続いて、「クレジットカード、デビットカード、リボ払い」が40.4%、「家計管理、生活収支、貯金」と「借金(奨学金、住宅ローン、消費者金融等)」が同率の37.9%でした。
このうち、「自身が高校時代に受けたかった」と「今の高校生に必要と思う」で乖離が大きかった(つまり、自身の高校時代に学びたかったとはあまり思わないが、今の高校生には必要だと思っている)のは、以下の4項目です。
項目 | 自身の高校時代 | 今の高校生 | 差 |
---|---|---|---|
借金(奨学金、住宅ローン、消費者金融等) | 19.4% | 37.9% | +18.5% |
悪徳商法、投資詐欺 | 18.5% | 35.0% | +16.5% |
クレジットカード、デビットカード、リボ払い | 25.3% | 40.4% | +15.1% |
契約、クーリングオフ | 16.9% | 30.1% | +13.3% |
これらについて、なぜ今の高校生に必要と思うのか、それぞれ理由を聞いたところ、次のような回答が得られました。
乖離の大きかった4項目を選んだ理由
「騙されたりしないようにしっかり学習した方が良いから」 / 54歳女性
「お金の使い方や世の中にある罠にはまらないように」 47歳男性
「クレジットカードを早くから自分で作れる割に知識がないので」 / 54歳女性
「危ないことが沢山あるので」 / 63歳女性
「成人年齢が下がって自分の意志で各種契約が可能になるから。騙される新成人が増えると思う。」 / 59歳男性
「使いすぎたり悪徳業者に騙されない様に」 / 63歳女性
「奨学金を受けている学生が多いから。投資詐欺の知識も欲しいと思われるから。」 / 44歳女性
「詐欺などが増えているため契約などの事は教えるべきだと思う。」 / 49歳男性
「大人になって損して学んでもよいが、金額が大きいと取り戻すのに時間が掛かる」 / 56歳男性
「若者に被害が多い傾向にあるから」 / 40歳男性
子どもたちには、騙されないための教育、失敗しないための教育を望む考えが強くなるのだと考えられます。また、成人年齢が18歳に下がったことで、昔よりも早く契約の主体者になることへの懸念も生じているだと思われます。
「自分は知りたかったが、子どもには不要」は親心?
これに対して、「自身が高校時代に受けたかった」よりも「今の高校生に必要と思う」の数値がマイナスとなった(つまり、自身は高校時代に学びたかったが、今の高校生にはあまり必要ない)のは、以下の5項目でした。
項目 | 自身の高校時代 | 今の高校生 | 差 |
---|---|---|---|
資産の運用方法(株式、投資信託等) | 40.0% | 36.4% | -3.6% |
利回り、複利 | 23.1% | 19.5% | -3.6% |
簿記、会計、財務諸表 | 23.5% | 20.0% | -3.5% |
保険(生命保険、火災保険) | 23.9% | 21.5% | -2.4% |
資産運用の必要性 | 32.6% | 31.9% | -0.7% |
これらの結果を合わせると、今の高校生に対する金融教育では「資産形成」よりも「騙されない」「失敗しない」ための教育を望むものの、自分が高校生のときには「資産形成」を教えてほしかった、という親世代の複雑な心境が透けて見えてきます。
子どもたちに望む教育については事前に実施した教員へのインタビューにも通じる結果と言えますが、その一方で、自らの人生を形成していくには「資産形成」の知識が重要であることを、多くの人が実感しているのではないでしょうか。
実際、「今の高校生に必要と思う金融教育」の回答でも、「資産の運用方法(株式、投資信託等)」は36.4%、「資産運用の必要性」は31.9%と、「保険(説明保険、火災保険等)」や「契約、クーリングオフ」、あるいは「iDeCo、NISA」といった項目と比べて高い数値になっています。
したがって、高校生に「資産形成」の授業が不要と考えているわけではなく、むしろ多くの人がその必要性を感じていることが、この結果から窺えます。
あらゆる投資にはリスクがつきものであり、リスクにどう対応するかという視点を踏まえた適切な教育が提供されることが、非常に重要です。
株の学校ドットコムでは、知識不足のまま株の世界に飛び込んで大切なお金を失うのではなく、株を人生を豊かにする手段にしていただくべく、これからも個人投資家・トレーダーのみなさまに、株式投資にまつわる本質的な学びを提供してまいります。